株式のなかには、配当金のほかに自社製品や金券などの株主優待を設けている銘柄があります。
配当金には所得税・住民税が課税されますが、優待品に関してはどう扱われるのでしょうか。
この記事では、株主優待にかかる税金について解説します。時価の評価方法や現状での課題にも触れているので、確定申告の参考にしてください。
株主優待とは?
株主優待とは、企業が株主に対して優待品を進呈する制度です。株主優待を設けている企業は2024年9月時点で1500社弱があり、下記のような優待例があります。
- 自社店舗で利用できるサービス券
- 自社や関連会社の商品
- 自社ゆかりの地域の名産品
- 金券(QUOカード・ギフトカード)など
株主優待の進呈対象となるのは、権利確定日に株主名簿に所定の株数を保有していることが記載された株主です。
なお、株式保有期間の条件を定めていたり、長期保有者に優遇を設けていたりする企業もあります。
例えば、日本マクドナルドホールディングス株式会社の場合、継続保有期間1年以上の株主を対象に、保有株式数に応じた優待食事券を進呈しています。
株主優待は、直接株主に送付されます。権利確定後2~3ヵ月ごろに送付する企業が多いようです。
優待品が選択できる場合には、権利確定日以降に企業側から案内がなされます。
なお、無配でも株主優待を実施している企業もあります。
一方で、業績の悪化や株主還元策の変更により、優待内容が変更されたり、廃止されたりすることもあります。
株主優待に税金はかかるのか?
株主優待は金銭ではなく現物で提供されるため、税金は関係ないと考えている方もいるかもしれません。
かつて、著名な投資家が優待には税金がかからないと発言し物議を醸したこともあったほどです。
しかし、所得税法には、株主優待が課税の対象であることが明確に記載されています。株主優待の課税関係について、基本的な考え方を知っておきましょう。
株主優待は税法上「雑所得」
株主優待は、税法において経済的利益とされ、雑所得に分類されます。所得税基本通達24-2では、下記のように規定されています。
配当等に含まれない経済的な利益で個人である株主等が受けるものは、法第35条第1項《雑所得》に規定する雑所得に該当し、配当控除の対象とはならない。
上記を受け、国税庁の確定申告サイトでは「株主優待を受け取った場合は雑所得(その他)として確定申告が必要です。」と申告漏れについて注意喚起がなされています。
雑所得とは、給与所得や事業所得、譲渡所得、一時所得など9種類の所得に分類されない所得のことです。雑所得は大きく以下の3区分に分けられます。
業務に係るもの:事業性・継続性のある副業の所得
上記以外のもの:暗号資産取引、FX、株主優待、貸株料など公的年金等、業務に係るものに該当しない雑所得
NISA口座でも課税の対象
一定額まで非課税で取引できるNISA口座で株式を購入している場合も、株主優待は課税の対象となります。
NISAは「少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置」であり、雑所得に分類される株主優待は含まれていないためです。
株主優待について確定申告・納税が必要になるケース
雑所得は基本的に確定申告を行って納税をします。
しかし、給与所得者の場合は例外として、年間20万円以下の雑所得は確定申告をしないことが認められています。
確定申告が不要であれば、所得税は課税されません。
そこで、給与所得者・給与所得者以外に分けて、確定申告・納税が必要になるケースを解説します。
なお、住民税は1円以上の所得があれば、住民登録のある市区町村に住民税申告をしなければなりません。
所得税の確定申告は不要の場合でも、申告が必要となるため注意しましょう。
給与所得者の場合
給与所得者の場合、下記すべてに当てはまる方は確定申告は不要です。
- 給与所得は1ヵ所のみ、2,000万円以下で源泉徴収を受けている
- 株主優待を含む雑所得が20万円以下
- ほかに確定申告が必要な収入や還付申告などの必要がない
しばしば副業収入が20万円以下なら申告の必要がないと言われますが、これは確定申告の必要がない人に限られます。
雑所得20万円以下の給与所得者でも、住宅ローン控除の初年度の申告を行いたい場合や医療費控除を受けたい場合には確定申告が必要になるため、株主優待を含む雑所得についてもすべて申告が必要です。
給与所得者以外の場合
給与所得者以外の自営業者や個人事業主、被扶養者の場合は、所得が基礎控除額の48万円を超える場合に確定申告が必要です。
公的年金等の収入がある年金生活者は、年間400万円以下かつ公的年金等に係る雑所得が年間20万円以下に限り、確定申告は不要です。
いずれの場合も、確定申告が必要な場合には、株主優待分を含めた雑所得も併せて申告しなければなりません。
株主優待の税金を計算する方法
株主優待には、所得に応じて5~45%の所得税と、約10%の住民税がかかります。
株主優待による利益などを含む雑所得は、対象となる1年の所得すべてを合算して税額を計算する総合課税となるため、納税者本人の所得状況によって納税額が変わります。
株主優待にかかる税金を把握するために、所得税の計算方法を解説します。
1.株主優待の時価相当額を算出
所得額を計算するために、株主優待で進呈されたものの時価相当額を算出します。
金券やギフト券などは、額面で計算します。品物の場合は、企業が設定する優待価値で計算するのが一般的です。
例えば、優待品について「自社製品3,000円相当」と企業が記載していれば、時価は3,000円で計上します。割引券の場合も、割引で得られる額とするのが妥当です。
しかし、なかには額面=時価と言えない場合もあるため、個別の判断が必要になります。
また、カレンダーなど社会通念上企業の広告宣伝を目的とした物品については、経済的利益とは考えにくいため、所得に含める必要はないと解釈されています。
このように、株主優待の時価は合理的な金額で算出しなければなりません。優待価値がわからない場合には、株式発行企業に確認すると良いでしょう。
なお、所得は収入から必要経費を引いた金額ですが、株主優待では経費の計上はできません。
株式取引にかかる手数料やその他の経費は、譲渡所得の計算時に経費として含められるからです。そのため、所得の計上には受け取った株主優待の時価をそのまま用います。
株主優待のほかに雑所得がある場合、雑所得の枠内で損益通算が可能です。
例えば、暗号資産の取引で生じた赤字と相殺できます。なお、国内FXは申告分離課税のため、通算はできず別計算となります。
2.総所得金額・課税所得金額を計算
株主優待は雑所得のため、給与所得や事業所得など、総合課税の対象となるほかの所得と合算し、総所得金額を計算します。
所得には、税の公平性を実現するために、所得から一定額を差し引く所得控除や、所得税額から一定額を差し引く税額控除が設けられています。
そのため、所得税額の計算には、総所得金額から所得控除を引いた課税所得金額を求める必要があります。
総所得金額から差し引ける所得控除には、下記が挙げられます。
3.所得税額を計算
所得税額は、課税所得金額に所得税率をかけて計算します。
所得税の税率は所得金額の段階ごとに5%~45%の7段階の税率が定められています。以下の速算表を用いると、簡単に計算できます。
課税所得金額 | 所得税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超~330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
330万円超~695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円超~900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円超~1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円超~4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
出典:【確定申告書等作成コーナー】-所得税の税率とは|国税庁
つまり、株主優待で得た利益にかかる所得税は、ほかの所得額と合わせた金額に応じて税率が5~45%になります。
また、2037年までは、所得税に復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)が併せて課税されます。
高所得者の場合は、優待にかかる税の負担が意外に大きくなることに注意が必要です。
なお、控除には所得控除のほかに、所得税額から直接差し引ける税額控除もあります。
例えば、住宅ローン控除や配当控除、外国税額控除などが税額控除です。
計算した所得税額から、税額控除額を差し引いた金額が、実際に納税しなければならない税額になります。
株主優待を転売した場合の税金
株主優待で進呈されたものが不要な場合、オークションサイトなどで売却することもあるでしょう。
ここからは、転売した場合の税金の扱いについて解説します。
ただし企業によっては、割引券などの優待品について、株主本人以外の利用を禁止しているものもあります。転売の際には、利用規定などの確認が必要です。
売却益は譲渡所得の対象
株主優待を第三者に売却して利益を得た場合、その利益についても課税の対象です。
取得した優待の価額は雑所得で、売却して得た利益分は譲渡所得(その他の資産)となります。
しかし、総合課税の譲渡所得には50万円の特別控除があるため、株主優待の転売のみで所得税が課税されるケースは限られるでしょう。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得額は、「譲渡額-(取得費+譲渡費用)-50万円」で計算します。
株主優待の譲渡所得では、取得費は株主優待の価額(雑所得として計上した価額)、譲渡費用はオークションサイトの利用料や送料など、売却にかかった費用を指します。
課税対象となるのは、売却益が50万円を超えた場合です。
株主優待の譲渡所得は総合課税のため、税率はほかの所得との合算で決まります。
株主優待に対する課税の実態と課題
ここまで株主優待への課税について解説してきましたが、給与所得者の場合はほかの雑所得と合わせて年間20万円を超えなければ確定申告は必要ないため、実際に株主優待のみで課税対象となる方は限られます。
また、株主優待の課税には、次のような実態や課題もあります。
制度上事実の把握が難しい
株式の譲渡益や配当は、取引証券会社から税務署に申告されるため、税務署は利益や損失を把握できます。
確定申告が必要なのになされていなければ、すぐに判明するでしょう。
しかし、株主優待は株主名簿に基づき、株式の名義登録業務等受託者である信託銀行によって実施されます。
配当と異なり支払調書が作成されるわけではないため、税務署が1件1件を把握することは困難です。
加えて、保有株数と優待価額が比例するわけでもありません。
時価相当額の算出方法が明確ではない
株主優待は、金券のように額面がはっきりしたものであれば時価を算出可能です。しかし、優待品のなかには割引券や非売品など、評価が難しいものもあります。
現状では、時価算出方法について規定はありません。
また、内容に関わらず受け取った時点で経済的利益が生じるのであれば、使用できなかった場合の損失の扱いについても問題になるでしょう。
このように、時価相当額の算出方法が明確でないことも、税制の課題といえます。
まとめ
株主優待は本来、所得税・住民税の課税対象です。現状では、税務署が優待の受け取りを把握する仕組みはありません。
しかし、税法上では申告・納税の義務があり、確定申告が必要な方は株主優待についても申告が必要です。
時価相当額の算出方法など、不明点は税務署や専門家への相談をおすすめします。